えびさわ由紀

報道ステーションはニュースではない

報道ステーション

近頃のテレビ朝日「報道ステーション」は、印象操作が目に余ります。
先日の「福島の子供の甲状腺がん」についての特集では、偏った医療機関にインタビューしたことを中心に構成し、医師の間では一般的な解釈である「スクリーニング効果 (注*1) 」に疑問を持たせ、福島県立医大が何か隠していると思わせるような印象操作を行いました。

また、小松内閣法制局長官の問題では、長官が一方的に悪いと印象付けるような「病気療養に専念して長官を辞めて頂いたほうが良い」という議員の言葉を、古舘伊知郎キャスターが皮肉まじりに繰り返す流れになりました。

放送法には、「報道は事実をまげないですること」、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」が規定されています。
このことから、テレビのニュースは事実だけを流すもので、「解説」であっても、自分の主義主張を含むことはできません。
一方、新聞では自らの意見を入れることが可能であり、テレビと新聞の大きな違いであるようです。

テレビ朝日では、ANNニュースというニュース番組を自局で制作しています。
報道ステーションは「ニュース」ではなく、「ニュース解説」でもありません。
制作会社への外注番組で、ANNのクレジットも入りません。
テレビ雑誌などでは、「ニュースショー」とか「総合ニュースエンターテイメント」という分類になっており、要するにワイドショーと同じ扱いです。法律上は、個人的な偏った意見をキャスターが自由に述べても良いということになります。

問題は、そうしたことを認識していない視聴者が数多く存在するのではないかということです。
夜のニュースショーの演出は、本物のニュースとの境界があいまいな気がします。
古舘さんの個人的意見や、制作会社の恣意的な企画を、NHKのニュースと同様に「間違いない普遍的で一般的な解釈」と誤認する視聴者がたくさんいるのではないでしょうか。

 

夜のニュースショーがどのように成り立ってきたのかを調べました。
最初にニュース番組に変化を与えたのは、1974年4月からNHKで始まった「ニュースセンター9時」のようです。


(1974年の番組表)

 

平日午後9時からの40分間という、民放各局がバラエティやドラマなどを放送するゴールデンタイムの時間帯に、あえてニュースを伝えるというもので、当時としては画期的でした。
NHKの場合、上級職である「解説委員」がニュースの解説をする「ニュース解説」が深夜の時間帯に放送されていましたが、これは前を向いて抑揚もなく淡々としゃべる、まじめで地味な番組です。
ニュースセンター9時では、メインキャスターが、リラックスした雰囲気でカメラに対して右肩を少し開いて左の肘をデスクに乗せる体勢でニュースを伝えました。そして、個人的な話を少しはさんで進行する最初の番組となりました。

視聴者から「行儀が悪い」と苦情も来たようです。こうしたスタイルは、今では普通に感じますが、当時は民放でもあまり無かったみたいですね。
ニュースセンター9時は、1985年10月に始まったニュースステーションに人気を奪われるまで放送され、1988年3月まで14年間続きます。

民放では、1985年になって久米宏さんをメインキャスターとして「ニュースステーション」が始まります。
この番組が、のちに報道ステーションに移行しますが、久米さんは、かなり多くの個人的な意見を織り交ぜて解説するようなスタイルを取り、賛否両論となりながらも人気を取っていきます。そのスタイルが古舘さんに受け継がれてきたわけです。

NHKでは、ニュースセンター9時が終了した後、時間帯の移動を含めた何度かの番組変更を経て、現在は「ニュースウオッチ9」として放送されています。
こちらも民放番組に対抗してか、大越健介アナウンサーが、かなり個人的な感想を織り交ぜていく、NHKのニュース番組としては特徴的なものになっているようです。


(現在の番組表)

 

NHK 日本テレビ
番組名 ニュースウオッチ9 ニュースZERO
キャスター 大越健介 村尾信尚
経歴 NHK政治部記者 元財務官僚 関西学院大学大学院教授
TBS フジ テレビ朝日
番組名 ニュース23 ニュースJAPAN 報道ステーション
キャスター 膳場貴子 大島由香里 古舘伊知郎
経歴 元NHKアナウンサー フジテレビアナウンサー 元テレビ朝日アナウンサー

(夜の各局ニュース番組一覧)

 

その昔、テレビのニュースと新聞くらいしかなかったため、夜のニュースの多くは翌朝に届く新聞より早い、新しい情報でした。
しかし、現在はインターネットもあり、ニュースの内容自体はすでに知っていることも多いのです。
視聴者が知りたいのは、より深い情報や、リアルタイムの情報・映像などで、面白くなければ多くの人は見ようとしません。
そうしたことから、テレビ局はニュース番組を面白くするために、見てもらうために工夫し続けてきたことでしょう。

ニュース番組がショー化するのは仕方がないとして、必要なことは、視聴者が正確な情報と個人的な意見をきちんと区別、認識できるようにすることと、メインキャスターが様々な視点からバランスの取れた話をすることだと思います。
あまり偏った印象操作につながる番組となることは、番組自体が面白いとしても避けるべきです。
個人的な意見に関しては、それがあくまで一般論では無いということをきちんと言及、もしくは表示するようにするべきだと感じました。

 

 

(注*1)スクリーニング効果
スクリーニングとは、治療が必要な人や観察の必要がある人を見つけ出す目的で、多人数の中から検査して病気を見つけ出す事。
小児の甲状腺がんは、これまで100万人に1人と言われていましたが、進行が大変遅く、子どものうちになったとしても自覚症状が大人になるまで出ないことも多い疾患です。通常はスクリーニングは行われておらず、自覚症状が出てから発見されます。
今回の場合は、27万人から33人が見つかりました。
これは、福島県の子ども全員を調べた事で、スクリーニングを行わなければ見つからなかった自覚症状がない甲状腺がんが見つかり、見かけ上の数が多くなったことが原因だとの見方が有力です。つまり、実際には元々の100万人に1人という確率が正確ではなかったとみるのが妥当と考えられています。

 

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