ネットとリアルが融合した「N高等学校」「N中等部」に視察に行きました。
ドワンゴとKADOKAWAが設立した新スタイルの学校です。
<N高等学校>
「N高等学校」は学校教育法第1条に定められた高等学校なので普通の高校と同じように高校卒業資格を得ることができます。
コースはネットコースと通学コース(週1日、週3日、週5日から選択できる)の2コースで、
高校卒業資格取得のために生徒全員が学ぶ「ベーシックプログラム」とその道のプロから学ぶ、将来へつながる「アドバンスプログラム」が用意されています。
<アドバンスプログラム>
・受験のプロフェッショナルから学ぶ大学受験対策
・ドワンゴのトップエンジニアから学ぶプログラミング授業
・ドワンゴメディアビレッジによるAIを構成する機会学習授業
・語学教育の精鋭から学ぶ英語と中国語授業
・著名な作家から学ぶ文芸小説創作授業
・バンタンの現役講師から学ぶクリエイティブ授業(イラスト、ゲームプログラミング、コミック、声優)
・エンタメ創作授業(ライトノベル、イラストレーター、コミック作家)
・音楽を作り出すDTM・ボーカロイド授業
・ものがたり創作授業
・中学復習授業
・自治体、企業、NPOと連携した職業体験
<アクティブラーナー制度>
近年、文部科学省が、自ら積極的に能動的に学習する「アクティブラーニング」を推奨していますが、N高等学校ではアクティブラーニングができる生徒を「アクティブラーナー」と呼ぶそうです。
アクティブラーナーに認定されると、時間割の一部をカスタマイズできるので、自ら設定した目標にむけて時間を最大限使うことが出来ます。
例えば、eスポーツの仕事に関わることを目標に、アクティブラーナー制度で時間割をカスタマイズし、eスポーツ選手権大会に出場し入賞を果たす。他には、大学進学を目標に、午後は受験勉強にあてるといった時間の使い方も可能です。
将来の目的達成のために必要な知識を得ることや行動することを、とことん追求できる、突き抜けることができる環境があることは素晴らしいことだと感じました。
実際に、アクティブラーナーに認定された高校生に話を聞くと、「将来の目標や自分の好きなことに時間を使える環境に満足している。もともとは不登校で、1日も学校に行くことが出来ずに退学し、N高を知り週1日の通学コースに入学を決めた。今では、週5日通学するようになり、自分が一番驚いている。大学に行く目標もでき、受験勉強に時間を使っている」と笑顔で話してくれました。
通信制というと、不登校や何らかの事情で普通高校に進学できない生徒が学ぶ場所というイメージがありますが、N高等学校を選ぶ生徒の中には、普通高校と比較して決める生徒もいるようです。
<様々な学校行事もネットで行う>
・ネット運動会
紅白にわかれて、eスポーツタイトルやタイピングゲームで勝敗を競う。
昨年開催されたネット運動会には130人以上の生徒が選手として参加。
・ネット部活
囲碁部、将棋部、起業部、投資部、eスポーツ部、コンピューター部、美術部、人狼部、音楽部、クイズ研究会など、ネット上で出来る種目で活動。各界のプロが特別顧問となり、直接指導を受けられる機会もある。
・ネット遠足
「ドラゴンクエストX」中で集合し、教職員と生徒が一緒に遠足に出かける。バンジージャンプや釣りなどレクレーションを楽しみながら、名所では記念撮影をしたり、チャットで交流しながら楽しむ行事。
<N中等部>
「N中等部」は学校教育法第1条に定められた中学校ではなく、教育機会確保法の趣旨を鑑みた新しいコンセプトのスクールです。
地元の中学校に在籍したまま学習するスタイルです。視察では通学コースの個別授業とグループワークを見学しました。
個別授業は、一流のプロフェッショナル講師による映像講義を自分のペースで視聴し、わからないことは、
ティーチング・アシスタント(TA)に質問することができます。
生徒全員が講義を視聴しているわけではありません。ゲームをやっている子、音楽を聴いている子、寝ている子、様々な生徒がいます。
担任の先生は、
「様子を見ながら声かけはしますが、もともと不登校で学校に行く事もしなかった子どもたちが、こうして学校に来ていることだけでも進歩だと考えている」
「一方的に命令して、何かをやらせるということはしない。 お互いコミュニケーションをとる中で、子ども達が自分を知り、夢や目標を発見することで、その目標の達成に向け自発的に行動を起こしていくようサポートに徹する」と話してくれました。
国数英の基礎学習以外にも、プログラミングの基礎、応用はもちろんのこと、ひとりひとり異なる夢や興味に対して、多様なクリエイティブコンテンツが用意されています。例えばバンタングループが提供しているファッション、デザイン、ゲーム、ビューティー、料理などの講義動画や、小説作家、楽曲制作、イラスト、声優、WEBデザインを学ぶ動画なども充実しています。
不登校児童生徒が学校以外の場で学ぶことができる大きな受け皿になっていると思いました。また通常の学校では、休むと同じ授業を再度受けることはできませんから、一度不登校になると学習面の遅れを取り戻すことが難しくなります。一方で、ネットでの動画授業はいつでもどこからでも視聴することができるメリットがあります。
<不登校児童生徒の増加と教育機会確保法>
2018年度の文部科学省の調査では、不登校の児童生徒は16万人を超え、過去最多を記録しました。不登校になる原因は様々ありますが、数字が増加している理由としては、2016年12月に成立、2017年2月に施行された「教育機会確保法」が背景にあると考えられています。
これまでは、不登校児童生徒は学校に戻すことを前提に対応がなされてきましたが、
「教育機会均等法」が成立したことにより、無理に学校に戻るよう促すことはしなくなってきました。
「教育機会均等法」は不登校の子供達の学習を支援することを目的に、学校以外での学習の重要性を認め、休んで良いとしたことがポイントです。この法律によって「無理に学校に行かなくても良い」という方向に思想の転換が起こりました。この法律を根拠にすれば、保護者にとっても、子供を学校に行かせなければならないという固定概念から解放されるわけです。
N高等学校、N中等部の取り組みは、不登校児童生徒の学びを支援する対策を考える上で大変参考になりました。