出生率低下の原因の一つひとつを検討して、十分な対策を長い期間で継続していくことで、出生率を回復し、ある程度少子化を食い止めることは可能かもしれません。
フランスやスウェーデンでは、家族政策により一定の成果を収めています。
しかし、日本の少子化の主な原因が経済状況にあるならば、日本全体の経済を思い通りにコントロールすることができない以上、どの程度回復させることが出来るのかは不透明です。
むしろ、世界的な傾向を客観的にみると、出生率を反転までさせるのは、かなり難しいと考えざるを得ないでしょう。
「少子化を食い止めること」つまり出生率の改善への努力は当然必要ですが、「少子化によって生じる問題を解決すること」は、より確実に、強力に実行していく必要があります。
今までは、経済成長することによって、様々な問題は蒸発して消えていきました。
これからは、問題にきちんと向き合っていかなくてはならない時代になるのです。
1)社会保障
社会保障の問題を解決する政策として、ベーシックインカム的な手法で年金、生活保護、失業保険の一体化を図る方法を提案したいと思います。
少子化問題の大部分は世代間格差問題です
「少子化によって生じる問題」は、大部分が世代間格差による問題で、さらにその大部分が年金の問題です。
公的年金制度をなんとかするすることで、多くの問題が解決します。
年金は、現在は世代間の助け合いである賦課方式です。
世代間の人数バランスが崩れてしまった今、放置すれば負担が増える一方で、世代間格差の急速な拡大が大問題になります。
このままでは、将来の働く世代の払い込む保険料が莫大になり、受け取る年金が十分ではなくなってしまうことが確実です。
払い損
現在でも、若い人はこう考えてしまい、未納が多くなってしまっています。
一番簡単な解決法はやめてしまうことです。そして、今まで納めたお金は利子を付けて返す。これで世代間格差は解消されます。
しかし・・・
年金が無くなると・・・
年金を廃止するということは、長生きした場合の社会保障が無くなることです。
最低保障となる部分の社会保障は、別の制度が必要となります。
また、所得に比例した年金を積み立てておきたい人は、私的年金を利用することになります。
もし公的年金として残していくならば、現在の賦課方式をやめ、積み立て方式で運営できるしくみに変えないといけません。
問題は、莫大な年金純債務(清算するときに返さなくてはいけない借金)をどうするかということです。
○清算方法
積み上がった負の遺産の清算には、鈴木亘の案が良いでしょう。
厚生年金にある500兆以上の莫大な年金純債務は、国鉄民営化でやった清算事業団のように別会計にする。
その上で、債務を現在の受給者と、現役層、将来世代でどのように分けるか決定します。
つまり、ここで一旦清算をして、
少子化問題によるコストを
誰がどう負担するのかを決めていく
と言うことです。
現在の受給者にも負担をお願いすべきです。
つまり、年金額を減らしてもらうなどの方法をとる必要があります。
人口構成上多数を占めるベビーブーム世代が子どもを産み始めた1970年代以降、出生率は人口置換水準を下回る水準に低下しました。
この世代が、たくさん産まれてきたのに少なくしか産んでこなかったことは確実ですので、多少なりとも転嫁する必要性が有るのではないかと思われます。
2)ベーシックインカム
○長生きリスクと家族間格差に対応する
最低保障部分の年金に変わるものとして、ベーシックインカムに準じた仕組みを提供します。
ベーシックインカムは、仕事をしているかどうかに関わらず、国民一人ひとりに国民生活の最低限度の収入を現金を給付するという政策構想です。
今の社会保障制度は、世帯単位の考えに成り立っていますが、これからの家族関係、家族間格差の問題を考えると、個人単位の考え方を取り入れる必要があります。
そういう意味でも、ベーシックインカムの考え方は時代の変化に合っています。
○行政コストの削減
誰にでも同じ金額を支給しますから、生活保護認定のような行政コストも減らすことができます。
職のあるなしに関係なく支給しますから、雇用が不安定な時代にも適した方法です。
財源に関しては、現在の税制のままでも、ひとりあたり月5万円弱までの支給が増税無しで可能だという試算が出されています。
実際には、7万円程度が妥当という意見が多数です。
不足分は今後の消費税増税分をあてること、社会保障を一本化し行政コストを削減する。その上で公務員を削減するなどの方法で達成可能だと考えられます。
○生保と失業保険も一体化
問題の多い生活保護制度も取り込んでいきます。
失業保険も必要がなくなり、非正規雇用の問題も、社会保障の面では解消される方向になるでしょう。
○地域間格差の解消
金額については、7万円では最低限の生活が成り立たないという意見があり、東京では暮らしていけないなどと言われます。
しかし一方で、地域間格差の解消に役立つとも言われます。
仕事を失ったら、地方の物価の安い地域で暮らすことも可能でしょう。
老後は別の場所で暮らすという選択肢もあります。
生まれ育った土地にずっといる人や、好きなところに住みたいと考える人からすれば、もちろん異論はあるでしょう。
しかし、
これからは社会構造が今までと違ってくる
のですから、個人がそれぞれ自分の状況に合わせて、新しい発想で対応が必要なことが出てくるのも当然です。
○給付ダウンになる人たちの存在
現在既に給付を受けている人で、実質給付ダウンになる人たちの対応をどうするのか。
現実的には、数年かけて給付を減らしていくなどの方法の方向付けをするようになるでしょう。
現在の制度においては、必要な人に給付されず、必要のない人に過度に給付されているケースが多々あるという現実があります。
また、「全額もらえる」か「全くもらえない」かという極端な支給法になる傾向があります。
認定を個別に行うことで、そういった事態を招き、利権も発生し、コストもかなりかかっているわけですから、ここでそうした仕組みを改め、公平なものにする必要があります。
制度変更に伴い、個別に対応が必要な事例が発生することもあるでしょうが、最終的には、制度の中で自然に手当されるような工夫をしていくようにするしかありません。
支給方法は現金以外に現物支給によるものも考えられますし、疾病・傷害や母子家庭などの対応は別途検討の余地があります。
3)労働のかたちを考える
労働は金銭を得るために働くのが一般的でしょう。
ベーシックインカムを導入すると、社会のためになる労働(ボランティア)の価値高める効果があるかもしれません。
ベーシックインカムの考え方には、労働の意欲がなくなるのでは?という疑問がつきものです。
労働意欲を維持するために、金額の設定を工夫したり、インセンティブの付与が検討されます。
しかし、働きたくない人を無理に働かせる社会の仕組み、例えば終身雇用、再就職の難しさ、退職金の存在などから、会社に縛り付けられて苦しい人生を送っている人もかなり多いのではないでしょうか。
退職するのにも、長期間の最低限の保証があれば、
仕事を辞める自由
も確保されます。
一方、仕事をしないことで、自分のアイデンディティが確認できずに苦しむ人がいます。
何もしていないのに、お金をもらうということに抵抗があるという人です。
労働と生活のための金銭を、多少なりとも切り離し、お金のためではなく働くことの価値を見直す。
働きたいと思う人が、お金のためではなく社会のために無償で働き、しかも暮らしていける社会。介護は原則的にボランティアでまかなうような社会が、もし成立するなら、それはそれですばらしい社会になるのではないかと思います。
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