特定健康診査・特定保健指導が導入されたのは2008年です。導入の生活習慣病を予防することで、中長期的に医療費の増加を抑えることでした。医療費の適正化を目的にスタートした特定健診と保健指導事業は、受診率が低いと、ペナルティが課される特徴的な事業で、各自治体は受診率を上げようとしてきました。
検診が導入されてから14年が経過しました。国では「特定健康診査・特定保健指導」実施のため、年間200億円超の税金を投入しています。大阪市の令和4年度予算は12億8,900万円で、これまでの事業費総額は、13年間で約120億円、年間の平均では約9億円となっています。
令和2年度の特定健康診査対象者37万4,169人のうち、受診者が76,954人、実施率は20.6%、動機づけ支援の対象者6,844人、受診者516人で実施率は7.5%、積極的支援対象者は3,111人、受診者は136人で実施率は4.4%となっています。
多額の税金を投入し「特定健康診査・特定保健指導」を実施してきたことによる医療費抑制効果について、導入時の目的を達成できているのか等について質疑を行いました。
日本の「特定健康診査・特定保健指導」、いわゆるメタボ検診について、2019年にOECDから提言がなされています。
簡単にいうと、「日本のメタボ検診は効果なく、費用対効果も悪く、むしろ有害では?」と書かれています。
「医療制度の財源がかつてないほど逼迫しているにもかかわらず、日本では国民の健康促進と疾病の早期発見を目的とした健康診断を幅広く取り入れていますが、異常なほど多くの健康診断を頻繁に行っても効果はなく、費用対効果も悪く、有害にすらなりかねません。日本の健康診断はほぼ間違いなくOECD諸国中最も幅広く、その全てが疾病の削減または医療コストの削減という意味で医療制度に価値をもたらしているのか明確ではない」(出典:2019年2月6日 「OECD reviews-of-public-health-japan 」日本語版プレスリリース)
医療は保険料だけで賄われているのでなく、税金がつぎ込まれています。医療費の増大はそのまま現役世代の負担となります。それもまた借金で賄われている部分が多いことを考えると、結局は、未来の子供達に負担を負わせることになります。医療費削減の効果がないのであれば、今までやってきたからと漫然と続けるのではなく、批判的な目を持って、今後の医療政策について考えていかねばならないと思います。
動機づけ支援を受けた方が516人で実施率は7.5%、積極的支援を受けた方が136人で実施率は4.4%ということです。
この少人数の方々を保健指導につなげるために、9億円を投入することが妥当かどうか、仮に人数が増えたとしても、事業に効果があるのかどうかを、行政、議員、国民は医療費のコストについて真剣に議論するべきだと考えます。
多額の税金を投入し「特定健康診査・特定保健指導」を実施してきたことによる医療費抑制効果について、国はどう考えているのか。
また、本市における、健康改善の取り組みは、どのようになっているのかうかがいます。
以下のリンクから録画をご覧になれます。
大阪市会録画配信(2022.3.10)
<全文>
Q1(海老沢由紀)
次に特定健康診査・特定保健指導。いわゆるメタボ検診についてうかがいます。
まず、2008年(平成20年)度に特定健康診査・特定保健指導が導入されましたが、その経緯と目的についてうかがいます。
A1(答弁:福祉局生活福祉部保険年金課 村上智生国保保健事業担当課長)
特定健康診査・特定保健指導について、その導入の経緯ですが、制度開始前の平成16年頃は、高齢化の急速な進展に伴い疾病構造も変化し、疾病全体に占める糖尿病などの生活習慣病の割合が増加し、医療費に占める割合は、国民医療費の三分の一にのぼるという状況でした。
また、高齢期に向けて生活習慣病の外来受診が徐々に増加し、75歳頃を境に入院が増加するといった状況でした。
これらは、若い時からの生活習慣病の予防による外来受診の減少や、重症化を予防することで入院を避けることができ、結果として中長期的に医療費の増加を抑えることが可能となるとの考え方から、法令により、平成20年度から全ての医療保険者に特定健康診査・特定保健指導の実施が義務付けられたところです。
Q2
特定健康診査・特定保健指導が導入された目的は、生活習慣病を予防することで、中長期的に医療費の増加を抑えることだ確認できました。
2008年に特定健診が導入される前の2006年、参議院厚生労働委員会で、当時の保険局長が、「特定健診と保健指導の実施により、2025年度に2兆円の医療費適正化を図れるという判断をしている」と答弁にもあります。
生活習慣病の予防による医療費の適正化を目的にスタートした特定健診と保健指導事業は、受診率が低いと、ペナルティが課される特徴的な事業で、各自治体は受診率を上げようとしてきました。金銭的なペナルティの評価の仕組みについてうかがいます。
A2
特定健康診査・特定保健指導の受診率に伴ういわゆるペナルティについてですが、
国は当初、特定健康診査、特定保健指導の実施率、メタボリックシンドロームの該当者・予備軍の減少率の三指標をもとに、全ての保険者に対して、後期高齢者医療制度への支援金を、最大10%加算・減算することとされていた。
平成30年度からは、後期高齢者支援金の加算・減算は、組合健保や共済組合などを対象とし、市町村国保については、受診率の向上など保険者の取り組みによって交付される保険者努力支援制度の仕組みの中で、加算・減算を行うこととなっております。
Q3
市町村国保は保険者努力支援制度の中で、加算・減算を行うとのことですが、保険者努力支援制度は保険者の医療費適正化の取り組みなどの実施状況に応じて、国が財政支援を行うというものであり、各保険者は受診率を上げていく必要があるということで、実質的なペナルティといえると思います。
こうした中で、国では「特定健康診査・特定保健指導」実施のため、年間200億円超の税金を投入しています。これまでの総額は2,737億円にものぼっています。(予算額は:市町村の国保169.2億、国保組合5.7億、健康保険組合27.2億、全国健康保険協会19.8億円)
そこで、本市の年間予算額と、特定健康診査がスタートした2008年以降、総額でいくらかけてきたのか。
また、実施状況についてうかがいます。
A3
令和4年度の特定健康診査・特定保健指導の予算ですが12億8,900万円を計上させていただいている。
平成20年度以降の事業費総額ですが、決算ベースで令和2年度までの13年間で、約120億円、年間の平均では約9億円となっています。
次に実施状況ですが、事業を開始した平成20年度の特定健康診査は対象者489,275人に対し受診者は84,367人で実施率は17.2%となっています。
特定保健指導の実施状況ですが、動機づけ支援の対象者が8,811人、受診者が152人で実施率は1.7%、積極的支援は対象者4,167人、受診者20人で実施率は0.5%でした。
令和2年度の実績は、特定健康診査対象者374,169人、受診者が76,954人、実施率は20.6%、動機づけ支援の対象者6,844人、受診者516人で実施率は7.5%、積極的支援対象者は3,111人、受診者は136人で実施率は4.4%となっています。
Q4
令和4年度の特定健康診査・特定保健指導の予算は12億8,900万円ですが、毎年平均で約9億円の費用がかかっているとのことです。
令和2年度はコロナの影響もあったと思いますが、動機づけ支援を受けた方が516人で実施率は7.5%、積極的支援を受けた方が136人で実施率は4.4%ということです。
この少人数の方々を保健指導につなげるために、9億円を投入することが妥当かどうか、仮に人数が増えたとしても、事業に効果があるのかどうかを、行政、議員、国民は医療費のコストについて真剣に議論するべきだと考えます。
多額の税金を投入し「特定健康診査・特定保健指導」を実施してきたことによる医療費抑制効果について、国はどう考えているのか。
また、本市における、健康改善の取り組みは、どのようになっているのかうかがいます。
A4
国は、特定健康診査等の実施による医療費の抑制効果について、平成25年3月に、レセプト情報や特定健康診査等情報データベース(NDB)を活用し、学術的に検証することを目的として「特定健診・保健指導の医療費適正化効果等の検証のためのワーキンググループ」を設置し
27年3月に、特定保健指導後3年間の検査値、入院外保険診療費や外来受診率の経年分析結果を取りまとめ、腹囲や中性脂肪などの検査値への改善効果が認められたことや、高血圧や糖尿病などに係る入院外保険診療費、外来受診率が低くなることが明らかになったとされています。
次に、本市の健康改善に向けた取り組みですが、特定健康診査の結果をもとに、糖尿病重症化の恐れがあるにもかかわらず医療機関未受診の方に対し、糖尿病性腎症の重症化を予防し、人工透析への移行遅延等により医療費適正化を図ることを目的として糖尿病性腎症重症化予防事業を実施している。
その中で、参加者の生活行動の変容、肥満度の指標であるBMIや血圧といった検査値の改善も見られているところ。
そのほか健診結果により高血圧や腎機能低下がみられる方に対して、各区保健師が様々なフォローを行うことで各種検査値の改善などが図られている。
Q5
「特定健康診査・保健指導の医療費適正化効果等の検証のためのワーキンググループ」の検証結果報告については拝見しました。医療費が削減できたという根拠として示されていたデータは、エビデンスレベルでは低いとされるものではないでしょうか。
この研究モデルについては、医療経済学者の津川友介先生が、「メタボ健診を受けて、指導をしっかりと受けた人と、指導を受けずにいる人を単純に比べている。メタボ健診を受けてその後の指導まで受ける人は、健康意識が高くてまじめな人が多いだろう。一方で、そもそもメタボ健診を受けなかったり、受けてもその後の指導を受けずにほったらかしている人は健康意識が低い人が多いと考えられる。 つまり、この2つのグループの比較では、実際にはメタボ健診の効果ではなく、健康意識の違いの影響を見ているに過ぎない可能性がある。 よって、これらの報告は「エビデンス」と呼べるほど信頼性の高いものではなく、メタボ健診の健康への影響を評価するための判断材料としては不適切であると言える」と指摘されています。
他にも、日本の特定健康診査についてOECDから提言がなされています。
資料4をご覧ください。日本語のプレスリリース版になります。簡単にいうと、「日本のメタボ検診は効果なく、費用対効果も悪く、むしろ有害では?」と書かれています。本文読みたい方は、かなり長文ですが、OECDのホームページでご覧になって下さい。
「医療制度の財源がかつてないほど逼迫しているにもかかわらず、日本では国民の健康促進と疾病の早期発見を目的とした健康診断を幅広く取り入れていますが、異常なほど多くの健康診断を頻繁に行っても効果はなく、費用対効果も悪く、有害にすらなりかねません。
日本の健康診断はほぼ間違いなくOECD諸国中最も幅広く、その全てが疾病の削減または医療コストの削減という意味で医療制度に価値をもたらしているのか明確ではない」(出典:2019年2月6日 「OECD reviews-of-public-health-japan 」日本語版プレスリリース)
特定健康診査・特定保健指導が肥満や健康改善に効果があるのかを検証した研究で、JAMA(アメリカ医師会公式学会誌)に掲載された津川友介先生らの論文や、医療経済研究に掲載された関沢洋一先生らの論文でも、明確な効果はなかったとされています。
健診がスタートして14年になりますが、莫大な税金を投入して行う意味があるのか検証が必要ではないでしょうか、見解をうかがいます。
A 5
特定健康診査・特定保健指導の効果検証についてですが、国の令和3年度予算に関して行政改革推進会議から、特定健康診査及び特定保健指導に関して指摘がされたところです。
具体的には、これまでの実施状況を踏まえ、医療費適正化及び健康増進双方の観点から、事業効果について検証したうえで、事業効果及び事業目的について明確にすること。
エビデンスに基づき事業効果を定量的に測定することができるアウトカム指標やアウトプット指標等についても検討すべきとのことでした。
また国において、令和3年12月9日に第1回目の「第4期、特定健康診査・特定保健指導の見直しに関する検討会」が開催され、
令和6年度からの第4期特定健康診査等実施計画を見据え、アウトカム評価の導入、ICTを活用した取り組み、科学的な知見を踏まえた特定健康診査等の技術的な事項について検討し、令和4年度末に取りまとめを行う予定とされている。
本市においても、国における取りまとめの状況を注視し、特定健康診査・特定保健指導の実施により、被保険者の健康の増進、ひいては医療費の適正化につながるよう、第4期特定健康診査等実施計画を策定していく。
<意見・要望>
法律で特定健康診査等が義務付けられており、受診率をあげないとペナルティがあるのですから、このようなお答えになることは仕方ないと思います。
医療は保険料だけで賄われているのでなく、税金がつぎ込まれています。医療費の増大はそのまま現役世代の負担となります。それもまた借金で賄われている部分が多いことを考えると、結局は今クレジットカードで医療を買い、支払いは未来の子供達に任せるということになります。
医療費削減の効果もなく、BMIやお腹周りを少し引っ込めるほどの効果しかないメタボ検診に莫大な税金を使い続けることが正しい政策なのでしょうか。医療経済学、HTAの視点を取り入れた政策が求められていると考えます。
ぜひ、今までやってきたからと漫然と続けるのではなく、批判的な目を持って、
今後の医療政策について考えていただきたいと思います。
☆質疑の模様は、youtube「大阪市会録画放映チャンネル」 でもご覧になれます。
(注)下の動画は、セキュリティの問題で、再生ボタンをクリックすると出てくるリンクからyoutubeのチャンネルに飛びます。